2011年7月アーカイブ


ボローニャ紀行

井上ひさし

文春文庫

2010年3月

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井上ひさしには珍しい(?)外国の紀行エッセイ。独特のユーモアあふれる筆致の中に、イタリア北部内陸の古い歴史を持つ小都市(人口38万)がいかにして、その歴史的遺産を守りつつ、精密機械を中心とした有数の工業都市として独自の発展を遂げてきたかを明快に分析し、語る。

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地図で見ると北イタリアの工業地帯とローマなど中南部との交通の結節点(ハブ)に位置することがわかる)

 

井上氏は年少にしてカトリック系の孤児施設に入り、尊敬する宣教師の属するドメニコ会の本拠のひとつボローニャは長らく憧憬の地であったという。そのボローニャに念願の訪問を果たしたのが2003年、井上氏は市内の各地を訪ね歩き、関係者に精力的な取材をしている。インタビュー相手の描写いかにも井上らしい。例えば「山崎努さんを空気ポンプで膨らませたような」巨漢の劇場長。「映画に出ていたら体格以外ではソフィアローレンを凌ぐだろうことは確か」な女性図書館長、という具合。

そこに描き出されたのは、地方自治の典型例、伝統的景観の徹底保全、社会的企業と伝統的職人型企業の発展など、演劇・音楽などの活発な展開など、地方都市の独自性を生かした独創的な「都市のデザイン」の姿である。

その例は旧市街の歴史的建造物の再開発・活用に雄弁に現れている。

路線バスの巨大な車庫→ホームレスの更生施設

貴族の館→保健所、保育所、集会所、劇場

女子修道院→ヨーロッパ一の女性図書館

証券取引所→児童図書館、一般図書館

特に凄いのが、広大な王立煙草工場(煉瓦2階建工場棟・煙草倉庫・事務所)を改修してを世界一の映像貯蔵センター(CINETECA:映画フィルムの収集と劣化したフィルムを再生:DVD化)と3つの映画館、3つの図書館、大学の芸術学部の実習スタジオなどにしてしまったことだ。

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この町のボローニャ大学はヨーロッパ最古の大学として有名、市内にはランボルギーニ(自動車)やテストーニ(靴)などの著名企業、多数の精密機械(特に包装機械が有名)がある。

次の海外旅行ではボローニャで美味しいパスタが食べたくなるような、一般の旅行書より格段に面白い魅力がふんだんの本でした。

 

 

 

 

 

世界の船舶事故史上でも遭難者の規模で最大級の「洞爺丸」遭難は昭和29年9月26日の出来事である。その翌年8月に発刊されたのが「台風との斗い」。事故の関係者が中心となり、生存者からの聞き書きや当日の諸記録を渉猟して編んだ書である。奥付けに「非売品」とある本書は遭難職員の遺族や関係者など限られた方々にのみ配布されたらしく、その後も増刷されることもなく、ながらく稀稿本として一部の関係者にのみ知られる存在であった。それが、NPO法人「語りつぐ青函連絡船の会」の知るところとなり、同会が運営する図書館「いるか文庫」が所有する原本から復刻再刊されたのが本書。

再版は原書をスキャンする方法で元の本の文字組や活字をそのまま再現、よみにくい部分は赤字で注を施すなど、非常に綿密な作業を経ている。

未曽有の暴風雨に立ち向かった多数の連絡船の乗員の姿が描き出されているこの本を通じて、私たちはあらためて自然の猛威の「人知を超えた」エネルギーにあらためて気付かされる。そして、その猛威を前に旅客の安全確保という崇高な職責に殉じた多くの乗員の行動にあらためて粛然とする。

奇しくもこの復刻版が世にでる2か月前に東北大震災そして福島原発事故という「未曽有」の災害に見舞われた我々にとって、この書の発する悲痛なメッセージはあらためて心を刺す。

 

復刻版「台風との斗い」頒価2,000円。

「台風との斗い」小冊子(カラ―表紙)300円・・・復刻版購入者には無料進呈

注文先:いるか文庫ライブラリーショップ

 

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(白地表紙が本書、後ろは記念展示会用小冊子19ページ)

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(原本のイメージ)

 

 

 

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